タイ開催の重量挙げ国際大会優勝の糸数選手の東京五輪に向けた意気込み
- 2019.02.16
- タイ

タイ・チェンマイにて開催された重量挙げの国際大会である「EGAT’sカップ」において、男子重量上げ日本代表である糸数陽一(豊見城高―日大―警視庁)選手は、2月7日に行われた男子61キロ級にて、スナッチ133キロ、ジャーク160キロのトータル293キロにて優勝した。
この記録は自身が持つ日本記録を1キロ更新する記録であり、東京オリンピック選考会も兼ねた本大会にておいてしっかりと結果を残した。
そんな糸数選手の応援のために会場に駆けつけたところ、チェンマイの街を回りながら色んな話を聞くことができたので紹介します
。
糸数陽一(いとかずよういち)選手の経歴と関わり
私が糸数選手と出会ったのは大学時代。
同じ学部で勉学に励み、また糸数選手と一緒にトレーニングをしたこともある。
当時の私は週5日は筋力トレーニングをしており、自身としてはそれなりに鍛えているつもりだった。
しかし彼のトレーニングに全くついていけなかったのをよく覚えている。
体重差が20キロ近くあるにも関わらず、である。
「やはり世界で戦うアスリートのレベルは違う」
そう思ったのを今でも鮮明に覚えている。
糸数選手は高校時代からすでに超一流のアスリートであり、これまで何度も日本一・アジア一を経験している選手である。
大学時代も優秀なスポーツ選手が多く集まる学科の中にいながら、頭一つ抜け出した成果を出しているなといつも思っていた。
リオ五輪では4位に入賞し、惜しくもメダルを逃したものの、その実力はもはや疑う余地はないだろう。
タイでの国際大会の様子
10年来の友人となる糸数選手の試合を観戦しに会場へ。
初めてのウエイトリフティングの試合の観戦ということもあり、勝手が分からないにしても、何か間違いがあってはいけません。
試合の前日から会場の下見を行う入念な準備を経て、選手でもないのに少し緊張して会場へ。

想像以上に大きい大会会場に驚きを隠せない私。
さすが世界大会。会場からしてレベルが違います。
驚きと緊張の中会場に入ると、そこには普段目にすることのない大勢かつ多彩なマッチョMANとマッチョWOMANが。

日本では習慣的に筋力トレーニングをしていた私ですが、ここまでレベルの高いマッチョ達の中に交じる経験はしたことがありません。
その圧倒的にマッスルな空間にはかなり圧倒されました。
会場ではすでに他の階級の試合が行われていました。
ちょうど糸数選手が「レジェンド」だと語っていた女子49kg級の三宅宏実選手の試合が行われており、運良くその姿を見ることができました。
結果は2位。初めて見るウエイトリフティングの試合が素人の私でも知っている有名人の方のものだったのは幸運でした。
そしてついに糸数選手の試合。
普段は人の良さそうな笑顔が印象的な彼ですが、試合の場ではとても凛々しく、勇ましく見えました。
シャッターチャンスは逃すまいと手を汗で濡らしながらカメラを握る私。
一本目のスナッチの試技。
初の糸数の試合の観戦。
緊張しながらカメラを構える私に衝撃が訪れます。
まさかの「No Lift」。失敗である。
おいおい。大丈夫か?と一人でハラハラする私。
しかし後に話を聞いたところ、この失敗でギアが入ったらしく、残りの試技はノーミスですべて成功させ、見事日本新記録を更新しての優勝を飾りました。
そして試合後の糸数選手を直撃。

私:「優勝おめでとうございます(笑)」
糸数:「ありがとうございます(笑)。応援に来てくれた中でしっかりと優勝できて良かった。」
今回は参加者が少ない大会で少し盛り上がりに欠けたとも語っていたが、小市民の私には全くそんな風には感じられなかった。
世界大会。十分に大きい大会だが、オリンピックを経験している男には少し物足りなかったようです。
私:「今日の試技は自分的には100点中何点くらい?」
糸数:「50点くらいかな。ウォーミングアップのときからかなり調子が良かったから、今日はもっと行けると思っていたけど、思っていたほど結果を出せなかった」
日本新記録を更新してもなおこの謙虚な発言。目標の高さが伺え、流石は糸数だと関心するばかりの私。
私:「1本目失敗したけど、その時の心境は?」
糸数:「やべぇ!と一瞬焦ったけれど、あれでギアがしっかり入ったように思う。」
失敗で動揺するどころかしっかりと切り替えるあたり、流石のメンタルである。
私:「今日のトータル293kgという記録は自分としてはどんな印象?」
糸数:「オリンピックでメダルを狙うにはやはり300kgは超えていきたい。そのためにはまだまだ足りない。でもスナッチは最近かなり調子が良い」
自身の現状と課題、目標とすべき記録をしっかりと見据えており、世界の舞台で戦う友人の姿に、感動と熱い気持ちをもらいました。
そして試合の日の晩。せっかくなので夕食を一緒に取ろうという話になり、チェンマイの街を散策しながら様々な話を聞くことができた。
そしてその中で、記録も更新しており素人目には彼の競技人生は順調なように見えていたが、オリンピックでメダルを目指す男の苦悩も垣間見ることができた。
東京オリンピックまでどう過ごすか、環境作りに迷い
自身が最大の目標と定める東京オリンピックまで1年半を切って、現在の自分の状況についてどう思っているか、糸数選手に聞いてみた。
所属している警視庁や、JOCからも強化指定選手として大きな支援を受け、選手として活動するには申し分のない環境でやれているし、そんな環境でやれてることにとても感謝していると語るが、あまりに申し分なく整った環境であるが故の悩みもあるようだ。
糸数「贅沢な悩みだけれど、今の環境は整いすぎていて刺激が少ないと感じている。ずっと日本代表選手として活動していることも理由かもしれない。自分にとって刺激の少ない中でこれまでと同じトレーニングを積み重ねるだけで、目標とする記録まで自分を伸ばせるのか、少し不安に感じている」
自身が目標とするオリンピックのメダル、そしてトータル300kg以上を目指すために、新たな試みや、緊張感を常に感じる環境にさらに自分を追い込むべきではないのだろうかと、悩んでいる様子だった。
確かに世界で戦う超一流のアスリートの方々が海外を拠点を移してトレーニングするなどの話はよく耳にする。
人間、思いがけない経験や刺激が自身を急激に成長させることがある。
違う環境での話ではあるが私自身も経験があるし、様々な経験が人の成長を相乗効果のように促していくものだと聞いたことがあります。
世の中には自分を鍛えるための環境作りに苦心する人が多いだろうが、世界のトップで舞台に戦う男だからこその苦悩が垣間見た気がする。
自分の経験の幅を広げていきたい

これまでウエイトリフティングという競技において圧倒的な結果を残してきた糸数選手。
その結果を残すために、これまで人生のすべてを重量挙げのために捧げてきたと言っても過言ではないだろう。
その事を自覚してだろうか。重量挙げ以外のことについても多くのことを知り、経験したいと思い始めたと語る。
私:「今の一番の目標ややりたいことは?」
糸数:「当然現在の最大の目標は東京オリンピックで結果を残すこと。
それでも代表選手として世界各国を回りながら練習や大会に臨むという、今の立場でなければ体験できない貴重な経験をさせてもらっているからこそ、試合で結果を残すことに加えた、+αの経験も積んでいきたい。
これまでの自分は試合で結果を出すことにだけに集中しすぎていた。それだけでは選手としても人としても見識の狭いつまらない人間になってしまうように思う。だからこそ試合で結果を残すことを主軸に置きつつも、様々な経験をして多くのことを吸収したい」
上記のように語ってくれた。
競技者としての強さに加えて、人間的な成長も求めている。
目先のオリンピックだけではなく、先々の人生まで見据えた考えを持っていることが感じられた。
東京オリンピックのあとは、指導者の道も視野に

せっかくの機会なので、東京オリンピックが終わった後のことも聞いてみた。
私:「東京オリンピックが終わった後、どうしたいとか決まってる?」
糸数:「まだちゃんとは決めていないが、漠然とだけれど後進を育成する指導者の道に進もうかと考えている。」
以前から糸数が指導者として引き続き重量挙げの世界に貢献していきたいと言っていたことを思い出した私。
自分が受けてきた恩や育んできた力を、後進に引き継ぎたいという思いは今も変わらないようだ。
そんなことを語るうちに夜も更けてきたので、その日はお開きにすることにした。
世界で戦うアスリートが抱える悩みや葛藤、考え方を知ることができ、貴重な体験だった。
東京オリンピックまであと1年半。
糸数選手がどのような選択をして大会に向けて自分を高めていくか今後も注目していきたい。
どんな道を選ぼうとも、後悔だけはしないように頑張ってもらいたい。
-
前の記事
タイのドンムアン空港からドンムアン駅までの行き方が分かりにくい!道順を紹介 2019.02.07
-
次の記事
バックパッカーの聖地と言われる観光名所「カオサンロード」に実際に行ってみた感想 2019.02.18